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消失を彷徨う空中庭園

消失を彷徨う空中庭園

第十六章 漏洩

 明くる日、サラにワイズマンから電話があった。
「花の暴走の話は聞いたかい。俺たちの研究所は壊滅した」
「ええ。私もそれを聞いてあなたを心配していたところよ。体は大丈夫なの」
「俺は大丈夫だ。だが、研究の方はまずいことになった」
「花の情報が漏れたのね」
 あれだけ派手な事件が起きれば、秘密裏にしてきた研究も白日の下に晒されることになるのは自明の理だ。
「その通りだ。だが、あの花は生物兵器として使われたら大変なことになる。攻撃性は極めて高く、人体に有害な超マイクロ波と強力な神経毒をまき散らすからな」
「だけど、私たちはどうすればいいのかしら」
「あの花を地球上から抹消して欲しい。存在が世の中に広がる前に。アメリカにあるものは、うちのチームが既に動いている。だが、そっちまでは手が回らない。」
「だけど、花の集落を見つけてそれを根絶させるなんてとても時間がかかりそう。こちらが危害を加えそうになると、彼らは自衛のため攻撃的になるもの」
「方法がある。あいつらは突然変異故に、生殖能力に欠陥がある。俺たちは、ラン科の種間雑種により毒性の弱い次世代を生み出すことに成功した。その時にはあの赤い花もすっかり無毒化していたよ。つまり、無毒化するための花粉を受粉させてやればいいのさ。最も、データも残ってないし、新たにそれを開発するには時間が足りなすぎるかもしれないが。手元にあるサンプルは少なすぎてすぐには渡せない」
 つまり、恣意的に交配させることによって無毒化できるケースがあるということだ。地下茎に似た植物だと思っていたから、確かにそんな検証はしてこなかった。以前にワイズマンからは、種子が見つからないと報告されただけに、交配させようという発想もなかった。
「なるほど。それだけ聞ければ何とかできるかもしれない。こっちにも心当たりを探すから」
 サラは電話を切ると、その子細を田島にもれなく伝えた。
「なるほど。ラン科の植物はどこの山でも自生しているからのう」
「それを恐れて、オアシスフラワーは高山の枯れた土に根付いているのかもしれません」
「ということは、案外あの花があった近くに天敵のラン科の植物があるということか」
「私はそう思います。あの付近だけでも十種類はラン科の植物があるはずです。どの種が影響を及ぼしているのかはまだわかりませんが。天敵がいるにも関わらずオアシスフラワーが生き延びてきたのは、ラン科の植物は栽培が難しく自家受粉による稔性が低いことが多いからでしょうか」
「人工的に作られた花は、やはり生物として完璧ではなかったということだね」
「そうかもしれませんね」


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